本研究は、豊後水道で夏季に起こる陸棚斜面から底層への冷水の流入(bottom intrusion)の実態とその発生機構を解明し、あわせてこの現象の豊後水道及び瀬戸内海に対する影響を明らかにすることを目的としている。本年度は、(1)愛媛県漁連が豊後水道東岸に設置した多層水温計による9層の水温観測データの解析、(2)ボックスモデルを用いた熱、塩分収支の解析による、豊後水道底層水の季節変動の解析、(3)豊後水道底層への冷水塊の流入(bottom intrusion)が小潮の頃に起こる機構の解明のための数値モデルの作成、の3つの研究を行った。 (1)では、昨年度までの観測と同様に夏季の小潮の頃にbottom intrusionが起こることが確認され、bottom intrusionの周期性が年を越えた安定なものであることが明かとなった。一方、bottom intrusionの強さは年によってかなり異なることも明らかになった。 (2)では、bottom intrusionによって夏季に豊後水道底層に流入した水塊が、秋にかけて太平洋側へ流出していくことを明らかにした。また、この流出により豊後水道の平均水温は夏から秋にかけて上昇し、通常の海域よりも遅い10月頃に最高になることを明らかにした。この流出は栄養塩を豊後水道より大量に太平洋に運び出すことを意味し、秋から冬にかけての豊後水道の栄養塩環境に大きな影響を及ぼすと推察される。 (3)では、陸棚斜面部分に起こる潮汐残差流の大潮小潮による変動がbottom intrusionの周期性の原因であると推定し、陸棚斜面域を含む数値モデルで潮汐残差流を再現する実験を行いつつある。
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