豊後水道の底層に太平洋から低温水塊が流入する現象(bottom intrusion)に関し、観測や既存データの解析により、その実態や豊後水道の海洋環境への影響を研究し、以下のことを明らかにした。 (1)bottom intrusionは初夏から晩秋にかけて周期的に発生する。その発生は潮汐の大きさの変化に連動しており、主に小潮の頃に起こる。このような周期性は、他の海域のbottom intrusionには見られない特徴である。 (2)初夏から盛夏にかけては繰り返し起こるbottom intrusionにより豊後水道の底層水温は低下する。盛夏から秋にかけては底層水が陸棚斜面に後退し、底層水温は上昇する。この結果、豊後水道の底層水温は冬と夏の2度極小になる。 (3)bottom intrusionにより流入した低温水は栄養塩を豊富に含む。この栄養塩が速吸瀬戸の強い潮流による鉛直混合や、豊後水道両岸の複雑な地形の海域で起こる効率的な鉛直混合によって有光層に供給され、夏季の生物生産を支えている。この結果、豊後水道では夏季に一時的なクロロフィル濃度の極大が起こる。 (4)bottom intrusionの強さには年による変動があり、1990年代に入って弱くなってきている。この結果、豊後水道の生産性も低下している。 (5)豊後水道の表層には太平洋から間欠的に高温水塊が流入し、急潮と呼ばれている。急潮の強さとbottom intrusionの強さには経年的に見ると相関があり、急潮の強い年にはbottom intrusionも強い。
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