研究概要 |
アラビア半島沖合は,南西モンスーンが吹くため世界でも有数の湧昇流海域であるが,氷期にはモンスーンが著しく弱まったとされる.本研究では,沿岸湧昇流が発達する地点のコア723Aと,少し沖合で湧昇流強度も比較的弱いオーエン海嶺からのコア722A&Bから採取した574試料について石灰質ナノ化石群集を定量解析し,第四紀の気候変動に対応して群集組成がどのように変化したかを研究した. コア723Aについて過去27万年間の変化を解析した結果,下部有光層の種Florjsphaera profundaの相対頻度は酸素同位体比と対応した変化を示す.しかし,湧昇流が発達したとされる間氷期にその相対頻度が増加しており,有光層中での垂直混合が起こるとその相対頻度が低下するとするMolrino andMcInLyreモデルとは逆の関係になっている.また,Gephyfocapsa属の寒冷種は氷期の中頃に急増するが,その後氷期の極期には一転して温暖種が増加するという一見矛盾した変化傾向を示す.一方,722地点では100-20万年前の期間はF.profundaの相対頻度が氷期に増加しており,上記モデルと整合的であるが,最近の20万年間は723地点と同様に氷期に減少している.さらに,太平洋では赤道湧昇流中に多い小型のプラコリスは,Gephyrocapsa属の温暖種とは明瞭な逆相関を示すが,F.Profundaの相対頻度とは無関係の変化傾向が認められた.このように,石灰質ナノ化石の群集変化は,北西インド洋における氷期/間氷期サイクル即ち湧昇流の強度変化とは整合性のない変化傾向を示すことが明らかとなった,この原因としては,石灰質ナノプランクトンはここの湧昇流中ではあまり増加せず,モンスーンの吹かない季節における個体密度ががなり高いことが考えられる.本研究の結果として,石灰質ナノ化石を詳しく解析することで,モンスーン海域の古海洋環境復元について新たな可能性が生まれたといえる.
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