研究概要 |
本研究の最終目的は、生痕化石の検討にもとづき過去5.5億年間における定住型泥食者の生活・行動様式の変遷史解明である.本年度は当初,中生代および新生代初期に堆積した地層中に見られる生痕化石を重点的に検討する予定であった.しかし,新生代後半の地層群(房総半島に分布する安房層群天津層および豊房層群,大磯丘陵に分布する二宮層,沖縄県与那国島および西表島の八重山層群)で本研究遂行上重要と判断される試料が新たに発見されたため,予定を変更しそれらの検討を重点的に行った. 主たる検討対象とした試料は,Palaeophycus属の生痕化石である.この生痕化石属は,チューブ状のトンネル構造からなり,トンネル壁は周囲の堆積物と粒度・質の異なる物質で裏打ちされている.これまでのこ生痕化石は,海水中に浮遊する懸濁物粒子を餌とする濾過食者の居住痕と解釈されてきた.今回,裏打ちを構成する堆積物の検討と地層中での産状観察を詳しく行った.その結果, Palaeophycus属生痕化石の形成者は海水中に浮遊する懸濁物粒子を餌とする濾過食者ではなく,海底面上に集積するデトリタスを餌とする表層堆積物食者である可能性が出てきた.この生痕化石は,約5億年前の地層から現在に至るまで産出が知られており,形成者の生活・行動様式を更に詳しく検討することで本研究の成果に大きく貢献する可能性が示唆される. Palaeophycus属以外の生痕化石では,定住型泥食者の生痕化石と考えられるChondrites,Phymatoderma,そしてZoophycosに関するデータおよび試料の収集を行った.また,収集した試料について,X線撮影や元素マッピング分析などの検討を予察的に行った.
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