研究概要 |
本研究の目的は,海棲底生動物,特に定住型泥食者の生活様式の変化過程を生痕化石の解析から明らかにし,それと海底に供給される栄養量の変化を関連づけて考察することにあった.最終年度にあたる本年度は,前2年間の成果を踏まえ,研究成果とりまとめに不足するデータの追加と総括を行った.特に,定住型泥食者の生活様式が大きく変化したことが生痕化石の検討から示唆されていた中生代の地層において,データの追補に努めた.なかでも,宮城県北東部に分布する古生代最後期から中生代後期にかけての地層において,生痕化石の記載,産状観察,そして形態の検討を集中的に行った.産出した主要生痕化石は,Chondrites isp.,Phycosiphon incertum,Piscichnus waitemata,Palaeophycus ispp.,Planolites ispp.,Scalarituba isp.,Skolithos linearis,Zoophycos isp.である.種数はともかく,量的に見た場合,明らかに定住型泥食者によって形成された生痕化石は著しく少なく,9割以上が自由生活者の生痕化石であった.特に,巻き数から定住期間が推定できるZoophycosでは,巻き数が1〜2巻きと極端に少なく,形成者は明らかに短期的な定住しか行っていなかったことが判明した.これまでデータが極端に不足していた古生代最後期から中生代中期にかけてのデータが追加・蓄積できたことは,本年度の大きな成果である.過去3年間の成果を加えて検討すると,生痕化石からみる限り,定住型泥食者の生活様式の大きな変化は中生代中期には未だ起きていないことが判った.この結果は,定住型泥食者の生活様式の大きな変化,特に定住生活の長期化は,中生代最後期に起きた植物プランクトンの爆発的増加と密接に連動している可能性を更に強く示唆するものと言えよう.
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