研究概要 |
本研究の目的は,海棲底生動物,特に定住型泥食者の生活様式の過去5億年間における変化過程を生痕化石の解析から明らかにし,それと海底に供給される栄養量の変化を関連づけて考察することにあった.研究代表者が海外の化石試料に基づいて行ったこれまでの研究によって,現在見られるような定住型泥食者の生活様式は,中生代白亜紀頃になって初めて出現したらしいことが判っていた.さらに,そのような生活様式を可能にさせた要因として,この時期に起きた光合成を行う植物プランクトンの爆発的増加とそれがもたらした深海底の富栄養化が指摘されてきた.本研究では,新生代のテータを充実させる作業と,泥食者の生活様式が劇的に変化した中生代後半期とその直前の時期における検討を平行して行ってきた.特に,中生代前・中期の地層が残されているわが国のフィールドは,上記の問題解決に格好の試料を提供している.その結果、古生代最後期,そして中生代前・中期の地層に見られる生痕化石は,その形成者である泥食者の生活・行動様式が,白亜紀以降のそれらが採用したような長期定住化を採用していないことを明瞭に示唆していた.この結果は,海外の化石記録から得られた仮説を支持するものである.ただ,本研究においては,陸源物質が到達しない程に十分に離れた大洋底で堆積した地層とそこに産する生痕化石を対象とした検討が全くできなかった.上記テーマを完全に解決するためには,そのためには,付加体中の大洋底堆積物の検討が必要であり,将来の課題である.
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