研究概要 |
3年計画の初年度である本年は,できるだけ多くのフィールドを予備的に調査することに重点を置き,九州天草獅子島の上部白亜系御所浦層群(プテロトリゴニア類などの二枚貝類),同じく天草地域の古第三系一町田層と逆瀬川層(二枚貝類,腕足類,ウミユリ),高知県の下部白亜系物部川層群物部層(ネズミノテガイ属の二枚貝),徳島県勝浦地域の下部白亜系傍示層(ニッポニトリゴニアを中心としたトリゴニア類など),南部北上地域の下部ジュラ系志津川層群韮ノ浜層(ゲラトリゴニアなどのトリゴニア類),上部三畳系長ノ森層(モノチスなど)について,フィールドワークを実施した.これらのうちで,天草獅子島の上部白亜系では,プテロトリゴニア類が,汽水域に近い外浜から海水域の外側陸棚まで,おもに暴風時の堆積作用による物理的撹乱の性質と強さに応じて,住み分けていることがはっきりしてきた.また,このような住みわけと,殻の機能形態と密接な関係があることも明らかとなった.すなわち,外浜のように,物理的撹乱が頻繁に起こり規模も大きな環境では,貝類が海底から洗い出されることを前提として,洗い出されてもすばやく潜ることができるなめらかな装飾と,大型化による撹乱に対する適応を示しているものが多い.一方,外側陸棚のように,物理的撹乱の影響の小さな環境では,泥質堆積物から洗い出されにくいように,鋭利で,細かな装飾を持ち,殻が薄くサイズも比較的小さいものが多い.このように,白亜紀においても,陸棚から,外浜にかけての貝類の分布は,物理的撹乱に対する適応によって支配されているという,本研究の当初の見通しを明確に裏付ける結果を得ることができた.
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