研究概要 |
本研究は,丹波-美濃帯・秩父帯を構成するジュラ紀付加体のジュラ系から保存良好な放散虫化石を摘出して群集組成を解析し,その経時変化の実態を明らかにすることによって,ジュラ紀における北西古太平洋域の海洋古環境の変遷を考察することを目的とする.平成10年度は,平成9年度でカバーできなかったジュラ紀古世中期の放散虫化石群集の検討を行なった.その結果,ジュラ紀最初期ヘッタンギアンからトアルシアン前期にかけての放散虫化石群集の変遷実態の概要が明らかとなった.平成9〜10年度の2年間で出された全群集組成解析データをもとにして,次の考察をおこなった. 三畳紀末の生物大量絶滅事件に関連して,放散虫化石群集の構成種数が三畳紀/ジュラ紀境界付近で減少する傾向が判明した.このことは同境界付近において,大陸縁辺域海域だけでなく,遠洋域においても浮遊性生物にダメージを与えるような海洋変動があったことを示唆する. ヘッタンギアンからトアルシアン前期にかけて放散虫群集の多様性は回復したが,トアルシアン前期末に生じたトアルシアン事件によって,ダメージを受けたと考えられる.同事件は,美濃帯において灰色・黒色チャート層の発達という岩相変化として記録されているが,古太平洋の遠洋域における海洋深層循環の停止を意味する.しかも,この酸素欠乏事件が深海底だけでなく,海洋表層域にもある程度影響を与えたことが放散虫化石群集の種構成の変化から推察される. トアルシアン中期からアーレニアン前期にかけての放散虫化石群集の変遷は,緩慢であるのに対して,アーレニアン後期からバジョシアンにかけて急速に群集変遷が起こっている.この変遷の特徴を当時の海洋変動との関連でとらえるならば,ゴンドワナ大陸の分裂,Central Atlantic Seawayの発達による古太平洋とテーチス海の連結などが深く関っていただろうと考察される.
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