ストロンチウム同位体トレーサーに用いた熱水鉱液の化学進化に関する研究

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09640564
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 中野 孝教 筑波大学, 地球科学系, 助教授 (20155782)
• キーワード: ストロンチウム同位体 / 熱水 / 地表水 / 岩石水反応 / 鉛同位体

研究概要

本研究の目的は、地表水から熱水への化学進化のプロセスをSr同位体をトレーサーに用いて検討することにある。本年度はすでに確立した分析方法を用いて、わが国において近年著しい研究成果をあげている熱水性金鉱床の成因の検討に着手した。具体的には(1)九州南部の火山地帯に広く分布する安山岩〜石英安山岩およびその基盤となっている四万十帯の砂岩・頁岩類のSr同位体組成の特徴を明らかにし、(2)更に両地帯に分布する地熱水と地表水の水質をSr同位体をトレーサーに用いて比較検討した。(1)については菱刈鉱山周辺の岩石を対象とし、金鉱床の形成に関係するマグマを抽出できるか否かに焦点を絞った。
その結果、岩体ごとに特徴的なSr同位体組成を有することが明らかになり、今後NdやPb同位体を用いて更に検討すれば、金鉱床形成マグマの成因について有力な切り口になると期待できる。(2)については、地熱水と地表水は共に火山岩地域および四万十帯地域で異なる^<87>Sr/^<86>Srを示し、水のSrが岩石がらの溶脱によることが確認された。
一方、地表水のPb同位体組成は大気起源と予想されるので流域の地質に拘わらず一定の値を示すこと、一方地熱水は岩石やマグマからの影響を受けるため大気鉛とは異なるPb同位体組成を示すことが期待される。現在こうした観点からの研究に着手している。
予察的には予想と整合的なデータが得られつつあり、今後の展開に期待している。

研究成果

• [文献書誌] 中野孝教: "Pyroxene geochemistry as an indicator for skarn metaliogenesis in Japan." I.Mineralogical Association of Canada Short Course Series. 16. 147-167 (1998)
• [文献書誌] 佐竹研一 井上隆信 笠作錠一・永淵修.中野孝教: "Monitoring of nitrogen compounds on Yakushima Island,a world natural heritage site." Environmental Pollution. 102. 107-113 (1998)
• [文献書誌] 伊藤 孝.白井朗.梶原良道.中野孝教: "Strontium isotopic compositions and paleoccanographic implication of fossil manganese nodules in DSDP/ODP cores,Leg1-126." Geochemica Cosmochimica Acta. 62. 1545-1554 (1998)
• [文献書誌] 横尾頼子.中野孝教: "Input of atmosphere-derived cations into andesite during chemical weathering" Ann.Rep.Inst.Geosci.Univ.Tsukuba. 24(印刷中). (1998)
• [文献書誌] 田端鈴・中野孝教: "Isotopic composition of Sr and Pb in limnetic molluscan shell in the Donjin area,central Korea" Ann.Rep.Inst.Geosci.Univ.Tsukuba. 24(印刷中). (1998)
• [文献書誌] 中野孝教・横尾頼子・田端鈴: "酸性雨研究におけるストロンチウム・鉛安定同位体" ぶんせき. 10. 77-82 (1998)