ストロンチウム同位体を水質トレーサーに用いて、熱水系の物質循環システムの再現、さらに資源探査への応用を試みた。南九州・屋久島のタングステン鉱脈鉱床の熱水は、堆積岩地域の鉱脈においても花崗岩に由来する低い^<87>Sr/^<86>Sr比を有するマグマ熱水の寄与が示唆された。菱刈地域の熱水系においては、変質岩や周辺の火山岩についてSr同位体に加えてNd・Pb同位体をトレーサーに用いて検討を行った。本地域の火山岩(安山岩〜石英安山岩)は北部の黒園山系と南部の獅子間野系に区別されるが、鉱床は獅子間野系火山岩類の後期の石英安山岩に伴い生じたと考えられる。Sr・Nd同位体の結果によれば、黒園山系火山岩は年代が若くなると共に周辺の四万十帯堆積岩類の混入およびより低温な結晶分化作用へと進化する。これに対して、獅子間野系火山岩類では、後期の石英安山岩や安山岩は低い^<87>Sr/^<86>Sr比と高い^<143>Nd/^<144>Nd比が示唆される。鉛同位体的には地殻下部にその起源が示唆された。一方、菱刈鉱山の石英脈および変質岩のPb同位体組成は明瞭な相違を示し、しかも単純なマグマ水と四万十帯堆積岩類の間の混合ラインに入らなかった。熱水は降水が河川水や浅層地下水として進化した天水とマグマに由来する熱水の大きく二つに区分することができる。このような観点から天水の水質や環境科学的な観点からSr同位体をトレーサーに用いた研究を行った。Sr同位体や元素組成などの地化学的手法は、スカルン型鉱床の成因や探査にも有効である。また近年盛んなSr同位体層序的手法から、海生層の年代決定にも有効であり、石油探査への適用という観点からいくつかの研究を行った。
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