研究概要 |
科学研究費補助金の交付を受けて,領家変成帯・濃飛流紋岩・肥後変成帯・舞鶴帯堆積岩・大洗層堆積岩の地質調査を実施し,また,変成岩・花崗岩類・堆積岩の岩石記載とCHIME年代測定を行った。主な成果は以下のとおりである。 (1) 濃飛流紋岩は、中部地方の領家変成帯から美濃帯・飛弾外縁帯を経て飛弾帯まで連続する日本列島で最大規模の火山複合岩体である。濃飛流紋岩は主に陸上で噴火した熔結凝灰岩から構成されているので、その噴出をもって現在の日本列島の骨格形成が完了したとみなせる。これまで、濃飛流紋岩の年代測定が多数試みられてきたが、堆積岩等の岩片が例外なく混在しているため、信頼できる年代が得られなかった。地質調査に基づいて、阿木川熔結凝灰岩層が濃飛流紋岩の活動初期に噴出したものであることを確認し、ジルコンとアラナイトのCHIME年代を測定した。阿木川熔結凝灰岩層の噴出は約85Maで、この時期までに日本列島の骨格形成が完了していたことが明らかになった。 (2) CHIME年代と黒雲母のK-Ar年代との不一致を解明するために、黒雲母の風化過程を解析した。黒雲母の八面体シート中の鉄が2価から3価に酸化すると結晶中の正電荷が過剰になり、この電荷のバランスをとるために層間のKが溶脱したり交換性になる。岩石が空気に触れた瞬間から黒雲母の風化は始まっており、顕微鏡下で新鮮な岩石の黒雲母でもK-Ar年代が大きく変動し得ることが明らかになった。 (3) 領家帯の変成時期は約100Ma、最古期花崗岩の貫入は約95Ma、濃飛流紋岩などポストテクトニックな火成岩の活動開始は約85Maで、これまでK-Ar年代の違い(西部の柳井地域約85Ma、中部地方:約65Ma)から考えられてきた変成火成作用の東進説は成立しない。K-Ar年代は最後の花崗岩の貫入に引き続く上昇冷却の時期に対応する。柳井地域の領家変成帯の平均上昇速度は1.5mm/年、中部地方は0.8mm/年である。
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