地球内部物質の原子の拡散、相転移などの諸現象は結晶中の原子の熱振動と深く結びついている。原子の動的挙動を回折法やEXAFS法などの観測・実験により明らかにすることは重要であり、先端的技術を用いて測定精度や測定条件などの向上につねに努力してきた。実験で到達できないような極端条件下ではシミュレーションにより原子の動的挙動を調べることが行われる。しかしシミュレーションに用いられる二体間ポテンシャルに観測的に制限や妥当性の有無が与えられることが重要であることを指摘しておく。 本研究により、放射光と高精度測定装置を用いることで精度の良いデータが高温高圧条件下等でも得られることが明瞭になった。とくに、非調和熱振動解析より得られる動径分布関数ρ(r)から有効二体間ポテンシャルの実測が行えたことが大きな成果である。このことにより、以下のような、具体的な結果が得られた。現実の有効二体間ポテンシャルが、地球内部条件下での熱や圧力による構造相転移など、配位環境変化に伴って変化することを定量的に観測した。二体間ポテンシャルを観測することで原子の拡散の活性化エネルギーや拡散移動の経路など原子の動的挙動を捕らえた。多くの鉱物は、イオン性と共有性の両化学結合様式の混在した状態にあり、代表的な二成分系共有結合性の鉱物において、系統的にイオン性増加に伴って非調和熱振動が顕著になり、大きな拡散係数を有するイオン伝導特性が現れることをみいだした。これらイオン性の混在した共有結合性の鉱物が、金属結晶やイオン結晶に比べ第一近接原子とたいへん大きな相関のある局所振動をしたフォノンによる熱伝導機構であることも明らかにした。地球内部とくにマントル層における鉱物の化学結合性や原子の拡散移動や熱伝導のメカニズムについての情報を得た。分子動力学法によるシミュレーションに観測から得たポテンシャルを導入してquartz型とrutile型に適用し、物性や構造を高い精度で再現できた。
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