本研究では、黒雲母と酸及びアルカリ水溶液との反応を、ケイ酸塩鉱物の化学的風化のモデルとして、溶解による雲母表面の変化を二次イオン質量分析法、X線光電子分光法、走査電子顕微鏡法により調べ、鉱物溶解のメカニズムを明らかにすることを目的とした。 酸による溶解実験は、黒雲母の薄片試料を0.05mol/l硫酸中(酸性雨による風化反応を再現するため)で1時間〜10日攪拌することにより行った。また、アルカリによる溶解実験は黒雲母の薄片試料を0.1mol/l水酸化ナトリウム溶液中で1時間〜15日攪拌することにより行った。 酸による溶解反応では、黒雲母表面に、SiO2・nH20の組成を持つ表面溶脱層の形成が確認され、硫酸と1週間反応した黒雲母では、表面溶脱層の厚さが約100nmと見積もられた。 また、硫酸と反応した黒雲母表面には割れ目や表面層の剥離があり、酸による黒雲母の溶解は不均一に進行することが示された。酸による溶解と対照的に、アルカリ溶液との反応では、Siに富む表面溶脱層は形成されず、黒雲母は均一に溶解することが分かった。 今回の実験からケイ酸塩鉱物の化学的風化、溶解反応メカニズムに関する基礎的知見が得られた。ケイ酸塩鉱物の酸による溶解反応では、溶解の初期段階でSi以外の陽イオンの溶脱(Hとのイオン交換反応)が進み、鉱物表面にSiO2・nH2Oの組成を持つ表面溶脱層が形成される。さらに内部の変質していない鉱物層からこの表面溶脱層を拡散して陽イオンが溶液内に溶け出し、また最表面層からSiが溶出することにより、ケイ酸塩鉱物全体の溶解が進行して行くものと推定される。一方、アルカリ溶液中では、ケイ酸塩鉱物の溶解は最表面から均一に進行して行き、もとの鉱物組成と異なる表面層は形成されないと考えられ、ケイ酸塩鉱物の化学的風化のメカニズムは、溶液のpHに依存して変化する。
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