研究概要 |
蛍光検出器付き高速液体クロマトグラフ法による蛍光増白剤の分析環境のセットアップを行い、sub-ng/Lオーダーの高感度分析可能な環境を確立した。スチルベン型の蛍光増白剤のDSBP、DAS1,およびBLSを対象とし、下水(1次処理水)の予備的な分析を行った。下水中からDSBPとDAS1が数〜数十μg/Lの濃度で検出された。この濃度と検出限界濃度から、これらの化合物を用い下水が1万倍に希釈されてもその影響を検知できる可能性が示唆された。この倍率はコプロスタノールやLAS等の既存のmarkersと同レベルであるが、蛍光増白剤の起源特異性と環境中での安定性を考えると、これらの蛍光増白剤のMolecular markersとしての有用性が期待される。来年度は今年度確立した分析手法により多くの環境試料を分析し、また 既存のmarkersとの比較も行い、Molecular markersとしての有用性を明らかにしていく予定である。また、全般にDSBPの方がDAS1より高濃度で検出された。これはDAS1がDSBPに置き換えつつある蛍光増白剤の生産動向を反映している可能性もあるが、今後柱状堆積物の分析により歴史的な変遷を再現することによりこの可能性を検討する必要がある。また、これらの蛍光増白剤は光化学反応によりトランス-シスの異性体化反応が起こる。試料の前処理の間の可視光を遮断できるような暗室を研究室内に設置した。この遮光条件下での分析から、下水に比べ河川水中でシス異性体の割合が高いことが明らかになった。このことは、環境中での数時間から数日のオーダーでの異性体化反応の進行を示唆している。トランス-シスの異性体化の割合は下水あるいは水塊の滞留時間の推定に有用である可能性が示唆された。来年度は光履歴の異なる環境試料の分析から、蛍光増白剤の滞留時間推定指標としての有用性の評価を行う予定である。
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