研究概要 |
本年度は昨年度開発した高感度な分析を用いて東京湾及びその集水域における2種のスチルベン型の蛍光増白剤DSBPとDAS1の分布と挙動を明らかにした。東京都内の6つの下水処理場で調査した結果、下水処理効率はDSBPが約60%,DAS1が約80%であり、これまで提案されてきたLAS(除去率95%以上)などの水溶性で微生物分解性の良い分子指標に比べ低い除去率であることが明らかになった。下水処理放流水からは8.0〜38μg/Lの蛍光増白剤が検出され、本分析法の定量限界が0.0004μg/Lであることから、下水処理水が環境中で約10000倍に希釈されても検出可能であることが明らかになった。河川水では0.3〜8.0μg/Lが検出されその90%以上は溶存態で存在した。多くの化学成分が除去作用を受ける河口域でも蛍光増白剤はかなり保存的な挙動を示した。観測結果をMixing diagramを使い解析した結果、除去率はDSBPが40%,DAS1が2.8%と計算された。この除去率も同じ河口域でこれまで観測されてきたLASの除去率に比べると非常に低いものであった。さらに、東京湾においても湾央から湾入口にかけて0.005〜0.4μg/LのFWAsが検出された。この結果は沿岸海域で陸起源の水塊をトレースする上で蛍光増白剤が有効なマーカーとなることを示している。また、2種の蛍光増白剤の比率DSBP/DAS1 ratioは水塊の海域における滞留時間を考える上で有用な指標であることも明らかになった。それぞれの化合物のcis-trans幾何異性体の比率も蛍光増白剤の吸着や光分解を考える上で有効であることも示唆された。東京湾の柱状堆積物からも蛍光増白剤はその使用の歴史を反映した鉛直分布で検出された。蛍光増白剤の柱状体積物における鉛直分布(特に検出されはじめ)は沿岸域における堆積年代の推定に利用可能であることが示された。
|