桜島は日本有数の活火山であり、桜島及びその周辺地域の土壌はこれまでの爆発で放出された火山性堆積物によって、過去の噴火の歴史を記録している。一方、火山活動によって放出される水銀は、ほとんど金属水銀蒸気であり、火山灰等の噴出物は高温下で一度mercury freeの状態になった後、これら金属水銀蒸気を吸着しつつ降下すると考えられる。すなわち、火山性堆積物は土壌中の存在期間及び水銀の元々の化学形が明快な試料になり得る。この点に着目した著者らは、水銀の環境中での動態変化を追跡する第一段階として、桜島及びその周辺地域、7箇所において、表層から1cm毎に深度約1mまで土壌を採取し、総水銀濃度、水分含有量、有機物含有量及び粒度分布の測定を行った。それぞれの垂直分布及びそれらの相関についても検討した。その結果、水銀濃度と有機物含有量及び水分含有量の間に高い正の相関が見出され、土壌への水銀の供給に植物が重要な役割を持っていることが示唆された。しかし、明らかな火山性堆積物の層では、有機物含有量はほとんどが1%以下で、植物の影響をほとんど受けていないことがわかった。また、土壌中の水銀は上下方向へはほとんど移動しないことを実験的に明らかにし、本フィールドの火山性堆積物が、水銀の土壌中の経時変化を追跡するのに有用であることを確認する事ができた。また、年間を通じて大気中水銀(金属水銀蒸気)の測定を行ってきたが、気温-水銀濃度の間に温度-蒸気圧と同様の関係式が成り立つことを見出した。このことは、土壌表面と大気との間に蒸着発散機構が存在することを示唆している。さらに、その関係式は桜島が気中水銀採取地点の風上になるときには成立せず、桜島から放出される水銀の影響を評価するのに有用な知見であることを見出した。
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