研究概要 |
本研究では,亜熱帯海域に位置するシャツキーライズの頂部平坦面である水深2680mから,ピストンコアラーを用いて採取した全長3mの堆積物コア(北緯32度,東経158度)を地球化学的に解析し,亜熱帯域の古海洋環境の変動を考察した.堆積物の年代は,浮遊性有孔虫遺骸の酸素同位体比の測定によって,26万年までさかのぼると推定される.平成9年度までに,2cm毎に切断した全150試料を使って,生物起源物質である炭酸カルシウム,オパールおよび有機態炭素の分析を終了した.また,鉄,アルミニウム,チタン,マンガン,銅,バナジウム,バリウムおよびリンの測定も終了し,これらのデータセットを得た. 本年度は,天然放射性各種であるトリウム230およびトリウム232,そしてウラン234およびウラン238を測定した.前年度までの測定値と合わせると,それら放射性各種の時間変動をほぼ明らかにした. 陸起源砕屑物質の構成成分である,鉄.アルミニウム,チタンおよびバナジウムの変動は極めて小さく,これらの元素は海洋中の生物地球化学的過程にほとんど関与しないと考えられる.炭酸カルシウム,オパールおよび有機態炭素の変動は,現在と12万年前の温暖期に高いことが判明した.ウラン238はコア中の還元層で著しく濃縮する傾向を示している.このことはウランも堆積物の間隙水中に溶け出し,拡散移動して,還元層に沈着することを表している.一方,トリウムの塩は不溶性のために,海洋中の沈降粒子によってトリウム230は効率よく堆積物中に運搬されやすい性質を持つ.過剰トリウム230の堆積フラックスは,現在と12万年前に大きいことが明らかとなった.これらの結果からは,北西太平洋の亜熱帯海域では,氷期におけるより,むしろ温暖期において,海洋表層の生物生産量が大きかったと考えられる.
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