溶液中の芳香族化合物からの室温燐光は通常観測されないが、シクロデキストリン包接化合物からゲストの室温燐光がしばしば観測される。従来室温燐光を発する包接化合物としては、6-ブロモ-2-ナフトールと2-クロロナフタレンを除くとすべてβ-およびγ-シクロデキストリン(誘導体)の包接化合物であった。α-シクロデキストリン以外の包接化合物ではシクロデキストリンが1分子関与した包接化合物から室温燐光が出るが、α-シクロデキストリンの場合にはα-シクロデキストリン2分子を含む2:1包接化合物だけが室温燐光を出すことが知られている。 そこで、α-シクロデキストリン(誘導体)との包接化合物で室温燐光を出すゲストを探索した。その結果、3-ブロモキノリンの包接化合物が燐光を発することを見いだした。α-シクロデキストリンと3-ブロモキノリンの系ではl:1および2:1包接化合物が生成されることがわかり、それぞれの平衡定数を求めることができた。また、α-シクロデキストリンの1級水酸基をヨウ素に変えたヨウ素化α-シクロデキストリンを合成し、3-ブロモキノリンについて、α-シクロデキストリンと合成したヨウ素化α-シクロデキストリンの包接化合物の室温燐光の特性を調べた。その結果、α-シクロデキストリンと比べるとヨウ素化α-シクロデキストリンではゲストの室温燐光強度が約18%減少することが見いだされた。ヨウ素化β-シクロデキストリン-2-クロロナフタレン系ではβ-シクロデキストリンよりもヨウ素化β-シクロデキストリン包接化合物で室温燐光の増強が観測されたのと対照的な結果となった。重原子を持たないナフタレンとヨウ素化β-シクロデキストリンの包接化合物が粘性の高いD-グルコース水溶液中で室温燐光を発することを見いだし、その量子収量を0.0022と求めることができた。
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