本研究は、金属イオンと架橋配位アミノ基より形成された多次元骨格構造金属錯体ホスト包接体の構造とその内部にあるゲスト分子の運動に関し知見を得ることを目的に、^2H-NMRとX線回析法を主要手法としておこなった。得られた結果を以下に列挙する。 1.広い分子運動モードに対応した^2H-NMR粉末パターン解析プログラムを開発した。 2.[Cd(CN)(dmen)_2]_2[Cd(CN)_4]ベンゼン包接体を用い、まだ十分な知見の得られていなかったベンゼン分子の面外運動の熱的活性化過程を明らかにした。また、金属錯体ホストの一部にも分子運動が存在することを示した。 3.[N(CH_3)_4][Cd_3(CN)_7]ホストのベンゼン、トルエン、エチルベンゼンの各包接体について各ゲスト分子運動を明らかにし、キャビティ構造、ゲスト分子構造と分子運動モードとの関係を明らかにするとともに、脱ゲスト分解過程のゲスト分子の動的挙動を明らかにした。また、基本的な分子運動モードと、それらの組み合わせによる複雑な運動モード組み立ての手順と解析手法を提示した。 4.[S(CH_3)_3][Cd_3(CN)_7]・p-キシレン包接体においてゲスト分子運動モードの変化とホスト構造の変化が共同して起こる相転移を見出した。 5.Cd(NH_3)_2Ni(CN)_4、Cd(en)Ni(CN)_4ホストのピロール包接体について調べた。無極性のベンゼン包接体との比較から、極性のあるピロールの場合には、ベンゼンと同様な分子運動がありながら配向性が保たれていること、及びホストとの共同効果の結果と考えられる相転移があることを見出した。 今後は、ゲスト分子運動の、2、3に示したような単なる熱的活性化現象ではなく、4、5のようなホストとの相互作用が共同効果として発現するような現象が主要な研究対象となろう。
|