研究概要 |
平成9年度に,ピコ秒指紋領域赤外分光装置の感度向上,自動化を進め,本年度はそれを受けて,装置の更なる改良と,いくつかの分子の測定を行う計画であった。まず装置の改良については,赤外光学系を凹面鏡を用いたものからZnSeレンズを用いたものに変え,収差を抑えることができた。また赤外発生用の増幅色素レーザー光源の増幅利得を抑えることにより,赤外吸収信号をかなり安定化することが可能であることを見いだした。その他の細かい改良を行った上で,2,3の分子について,溶液中の指紋領域過渡赤外吸収スペクトルを測定した。まずトランススチルベンのS_1状態の過渡赤外吸収をアセトニトリル及びヘプタン溶液中で測定し,以前に測定されている同過渡種のラマンスベクトルと比較してその分子構造について検討した。ヘプタン中のS_1状態では対称中心をほぼ保った構造を持つのに対し,アセトニトリル中ではわずかに中心対称性が崩れていることを示唆する結果が得られ,極性溶媒中で分極した構造が安定化することが考えられる。関連する構造を持つ分子として,ジフェニルアセチレンの電子励起状態についても過渡赤外吸収の測定に成功した。次にS_1状態で強い分子内電荷移動を起こすと考えられている,4-ジメチルアミノベンゾニトリルのアセトニトリル溶液中のS_1状態の過渡赤外吸収を測定し,その分子構造について検討した。フェニル基炭素原子ージメチルアミノ基窒素原子間の結合の伸縮振動によると思われる比較的強い吸収帯が単結合振動領域に現れ,この結果はC-N間がS_1状態で単結合的であることを示唆する。
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