研究概要 |
大幅な分子内回転を伴う異性化反応を対象として、化学反応に対する動的な溶媒効果を調べるのが目的である。二つの項目に大別される。(1)「分子内電荷移動を伴う異性化反応jの動的溶媒効果」と(2)「無極性溶媒中での無極性な遷移状態を持つ異性化反応の動的溶媒効果」の研究である。高圧法は、溶媒和構造(あるいは相互作用ポテンシャル)を大きく変えることなく、溶媒粘度を大幅かつ連続的に変化させることができるため、動的溶媒効果の研究の有効な手段となる。 (1) 分子内電荷移動異性化反応の動的溶媒効果:一連のアルコール溶媒中で、4-(N,N-ジメチルアミノ)トリフェニルフォスフィン(DMATP)のSl状態での"ねじれ電荷移動(TICT)状態"の生成速度定数(kTICT)を、蛍光量子収量と時間分解蛍光スペクトルの測定から、圧力の関数として決定した。kTICTを溶媒粘度の関数として考察した。また、溶媒の縦緩和時間(τL)を溶媒和時間の尺度として使用した。 溶媒座標を考慮した励起状態の二次元ポテンシャルエネルギー表面上での、反応経路のシフトとして理解できる。溶媒和効果と分子内運動効果を明確に分離した。このような"Pressure Tuning Effect"は普遍的な現象として実証できた。アルコールの溶媒緩和時時間を見積もるため、クマリン153をプローブとし、高圧下の動的ストークスシフト測定を行った。その結果、τLの長時間成分との良い一致を見出した。 (2) 無極性溶媒中の無極性異性化反応の動的溶媒効果:対象系は、2-ビニルアントラセン(I)と2,2-プロペニルアントラセン(II)のSl状態での異性化反応である。エタンの超臨界状態から、圧縮液相のn-オクタンに至る広範囲な粘性領域で、異性化反応速度定数(ki)を決定した。 (1)空間拡散律速の液相状態の高粘性領域では、緩やかな粘度依存性(i.e.,非クラマース挙動)を示す。(2)エネルギー拡散律速の気相低粘性領域では、粘度増加に伴って単調な増加を示す。また、活性化エネルギーは、全粘度領域でほぼ一定である。これは対象とする反応系の遷移状態が完全に無極性であることを実証する。(3)I,IIについて、明瞭な「クラマース反転」を観測した。(4)反転領域は、IよりIIの方が低粘度領域に出現する。これは、回転原子団の嵩高さの違いを反映している。
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