溶媒の再配列効果をうけず、または位置のはっきりする結晶中での電子移動過程を解析することで、その内部再配列エネルギーを検討することを目的としている。固相(微結晶)での電子移動過程の過渡吸収を測定する方法を開発した。赤外線吸収測定に用いるKBr錠剤法と同様であるが、レーザー励起による試料の損傷を避けるためKBrに代えてより熱伝導度のよいKClを用いて、直径1cm厚さ1mmの透明な錠剤を作成した。過渡吸収の測定だけでなく、発光の測定においても減衰のみならず強度も精度よく比較できるよい方法である。Ru^<2+>とCo^<3+>を架橋配位で繋いだ複核錯体を、錠剤に分散された系について研究を進めている。複核錯体の一つでRu^<2+->MLCT励起状態からの電子移動速度定数が室温溶液中で1.2×10^9s^<-1>の場合は、室温結晶中では励起状態の減衰は1.5×10^8s^<-1>と一桁遅くなった。結晶中での過渡吸収の測定では励起レーザー光強度を高めて励起状態量を高める必要があるが、励起状態密度が高いときには励起状態間の二分子反応(T-T反応)も起きる。そのT-T反応の過程の解析も行い、電子移動生成物であるRu^<3+>及びRu^<1+>を確認した。 ナノ秒領域の過渡吸収及び発光測定システムを、ここで新規に購入した超高速デジタルオシロスコープ(500MHz)を利用してコンピュータによるオンライン解析を行っている。これまでより測定精度が向上し、僅かな変化の解析が可能となった。新規に購入した高速コンピュータを利用して、一次反応と二次反応が並行する場合等の解析を行っている。 これまではっきりしていなかった、より短い時間領域(フェムト秒時間領域)の電子移動過程の測定もとりかかっている。
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