研究概要 |
1)N-(1-アダマンチル)アセトアミドがアミド類に通常見られる水素結合を形成して結晶化するほかに,メタノール・水溶媒和物として結晶化することを見出した.この結晶中で,アミド基は水およびメタノール分子と水素結合を形成し,結晶中の親水性の領域の形成にあずがっており,アダマンタン部分は疎水性領域を形成している.この事実は,球状の炭化水素分子の一部に水素結合性の官能基をもつ分子の相互作用の一様式として注目される.2)結晶構造に及ぼす水素結合の役割を調べるために,もっとも単純なカルポン酸の一つであるタルトロン酸の酸性アンモニウム塩および中性アンモニウム塩の結晶構造を決定し,陽イオンの周りの配位を対応するアルカリ金属塩のものと比較した.3)抗腫瘍作用等の生理活性が知られているゲンノショウコの主成分ゲラニイイン7水和物の結晶構造を,植物中に広く存在するこの系統のタンニン類としては,はじめて,常温および低温のX線回折データを用いて決定した.分子の配座とともに30種の水素結合の様式と常温におけるそれらの乱れの様子を明らかにした.4)コハク酸水素アンモニウムの結晶の170Kにおける二次の相転移にともなう構造変化を明らかにするために,この化合物の結晶構造を80Kと20Kで決定し,これまでに得られた常温から150Kまでの結果と合わせて,水素結合の構造変化を解析した.その結果,O-H・・・O水素結合の酸素原子間の距離は転移点において極小値をとり,アンモニウムイオンの関与するN-H・・・O水素結合のうちもっとも弱い水素結合の距離は,転移点以下で温度の低下とともに減少することが明らかになった.O-H・・・O水素結合の水素原子の位置は,20Kにおいても結晶学的対称中心の周りに乱れているように観測された.以上1)-4)の成果は学術誌に報告した.
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