本研究では固体高分解能NMRの手法を用いて膜結合イオンチャネルペプチドの三次元構造および配向の決定を行う新しい方法論の確立を目的として研究を遂行し、以下の結果を得た。 (1)オピオイドペプチドであるLeu-エンケファリン結晶の三次元区像を精密原子間距離情報を基に決定することを試みた。6種類の精密原子間距離を精密に測定し、この距離情報をペプチド各残基のねじり角に変換した。この時、化学シフトなど方価から得られた二次構造情報を制限条件に加えることにより、ねじれ角の範囲を限定することが可能となり、最終的にユニークな分子の三次元構造を構築することが可能となった。 (2)3アミノ酸残基からなるぺプチドN-Pro-Gly-Phe試料においてCーN原子間距離を精密に求め、分子内原子間距離および分子間距離を3-スピン系の取り扱いを行うことで、それぞれを独立に決定すると共に分子内と分子間ベクトルのなす角度を求めることに成功した。 (3)ハチ毒の主成分であるメリチンとリン脂質であるDMPCの混合膜を調製し、磁場中で膜分断と融合を起こした結果、この二重膜は膜面を磁場に平行に向けて自発的に磁場配向をすることが判明した。この磁場配向膜中のメリチンの^<13>C化学シフト値を解析した結果、メリチンはαーヘリックスを形成しており、このヘリックスは膜貫通状態であることが判明した。さらにこのヘリクッスは膜面に垂直な対称軸のまわりで回転している動的な状態である事が明らかになった。 (4)以上2年間の研究によって膜結合分子の三次元構造や膜に対する配向を決定するシルテムが完成した。今後の展開は分子量の大きなイオンチャネルペプチドやイオンチャネル蛋白質における膜結合構造の決定に、これらの方法をいかに適用していくかを明らかにすることである。
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