研究概要 |
1. 光パラメトリック発振を応用した赤外レーザーを用い、分子の振動回転準位選択が可能であることを確認した。すなわち、アセチレンを対象として、ν_3バンドおよびν_1+ν_3バンドの光音効果を利用したスペクトル測定を行った。回転解析の結果得た分子定数は、既報の値とよく一致した。レーザーの分解能は0.02cm^<-1>,波長のゆらぎ0.04cm^<-1> hr^<-1>の安定度を確認した。 2. アセチレン分子は対称中心をもつので、その振動モードは、対称中心に対してg対称性とu対称性の二つに分類される。電子基底状態の振動基底準位はg対称性であるから、電子励起状態のg対称的な振動単位へ光励起可能である。赤外レーザーによってu対称振動準位へ励起した分子の光励起では、u対称的な振動準位へ励起できる。1光子励起では、観測できないu対称性振動回転準位スペクトルを赤外-紫外2重共鳴2光子分光によって測定した。観測した振動単位は、面外CH変角v^1_4と面内シスCH変角v^1_<66>振動とトランスCH変角振動nv^1_3の結合準位である。v^1_4振動準位は、a_u対称性で、σ_u対称性のv^n_3準位から禁制遷移であるにもかかわらず、強い遷移スペクトル線が観測された。このことは、v^1_6とv^1_4振動モードが相互に強く相互作用していることを意味する。二つの振動モードは直交しており、a軸およびb軸まわりのコリオリ相互作用が主たる原因と見られる。ただし、この他の相互作用を考慮しないと説明できない遷移線も観測されている。 3. アセチレン分子の5v^1_3,6v^1_3の回転準位構造を観測し、6v^1_3準位が二つの振動準位に分裂していることを見出した。それらの準位の回転定数はnv^1_3(n=3〜5)のそれと大きく違っており、その値はv^1_6のそれに近い。つまり、これらの準位がシスCH変角振動の寄与をもつ可能性があると結論できる。このことは、アセチレンの電子励起状態のトランス-シス異性化障壁が5v^1_3と6v^1_3準位の中間に位置するものと考えられる。
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