1. 多原子分子のK殻電子を励起することにより位置選択的反応制御を行なうために、分子の形状による検討を行なった。すなわち、(a)メタン系の比較的小さな分子、(b)分子中に芳香環を有する分子および(c)直鎖状脂肪族分子について、分子中の原子のK殻電子を選択的に励起してその励起位置選択性を測定した。その結果、(a)に属する小さな分子では、分子内エネルギー移動が速くて位置選択性は観測しにくい。(b)においては芳香環が特有な分解を起こすため、分子の励起位置の記憶は失なわれる。(c)の分子では、分子サイズの効果が大きく、鎖が長いほど、また、オージェ崩壊に参与する電子の局在化が大きいほど分子の初期励起の記憶は、分解生成物に明確に現れるということが判明した。 2. K殻電子励起による位置選択的反応を利用して、反応制御を行なうためには、K殻電子励起後に起こるオージェ過程を測定する必要がある。クロロフルオロメタン類についてオージェ電子分光測定を行なった。観測されたオージェ電子は分子中の塩素、フッ素および炭素原子の価電子分子軌道と良く対応していた。特にCF_3CNでは、分子内の炭素と窒素のK殻電子をイオン化したとき、オージェ崩壊過程はほぼ同じであった。フッ素原子のK殻イオン化ではまったく異なるオージェ崩壊をすることが判明した。すなわち、CF_3CN分子ではF(1s)励起のみが位置選択的反応を起こすものと予測される。 3. 多原子分子、特に脂肪族系分子のK殻電子を選択的に励起して非統計的な化学反応を起こし、その結果とオージェ崩壊過程とを統一的に解釈れば高エネルギー化学分野が展開できるものと思われる。すなわち、分子の特定な位置を選択的に切断する「分子メス」、「分子スイッチ」の可能性が展望される。
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