本研究では、我々が開発しつつある新しいパルス磁場勾配NMR法を液晶研究に適用し、様々な液晶系において自己拡散係数テンソルを測定し、それらのデータと液晶物性との関係を探った。 スメクティック液晶の自己拡散係数テンソルに関する研究成果: (1)液晶同族群において末端置換基によって自己拡散異方性が反転する系を見出した。 (2)スメクティックA(SA)液晶OBBFにおいては、ひとつの相内で自己拡散異方性が反転することが分かった。 (3)SA液晶の種類によって自己拡散系数テンソルには特徴的な違いがあることが分かった。通常の単分子属型SA液晶においては自己拡散の活性化エネルギーの異方性が大きい。つまりE_<a‖>がE_<a⊥>より2倍程度大きい。いっぽう、強い極性基を持つ液晶に見られる会合型のスメクティックAd(SAd)相における自己拡散係数テンソルはネマティック液晶ののそれに似ている。つまりD_‖>D_⊥で、二つのE_aの大きさはほぼ等しい。 (4)リエントラント液晶CBOBPにおける高温と低温の2つのSA液晶の自己拡散係数テンソル及び活性化エネルギーの異方性には特徴的な違いがある。高温相では構造から予測されるように会合型ののSAd相の特徴を示すのに対し、低温相では単分子属型のSA1相の特徴を示す。 (5)反強誘電性液晶MHPOBCにおいては、常誘電相(SA相)において既に大きな拡散異方性が存在する。つまり、拡散係数自身が1桁近く異なる(D_‖>>D_⊥)と共に、活性化エネルギーに3.1倍もの違いがある(E_<a⊥>=3.1E_<a‖>)ことが分かった。この結果は、SA相において既に分子が層内に強く束縛されていることを示すものであり、反強誘電的秩序化に有利な特性が常誘電相において形成さえていることを示している。 (6)ヘクサティック液晶PHOABのSA相においては自己拡散の活性化エネルギーに大きな異方性がことが分かった。
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