研究概要 |
金属配位子となる2,2'-ビピリジン部を有する二つのビスフェノールA骨格と第二の認識点となるアンモニウム部をもつホストの合成に成功した。また、このホストがCu(I)と1:1でしかも定量的に錯形成することを各種スペクトルから明らかにした。こうして得られたCu(I)錯体は二つのビスフェノールA骨格で囲まれた空孔(擬シクロファン構造)を持つことになるので、この分子認識力を溶媒抽出実験や液膜間輸送実験により調べたところ、フラビンモノヌクレオチドのナトリウム塩(FMN)に対してこの錯体が捕捉能力を持つことがわかった。Cu(I)錯体でない場合や、アンモニウム部を持たない類似のホストを用いた場合にはいずれもFMNの認識力は著しく弱くなった。つまりこのCu(I)錯体はFMNのイソアロキサジン環を捕捉し、空孔近傍にあるアンモニウム部はFMNのリン酸アニオン部と相互作用する協同的な様式でFMN認識を行っていることを強く示唆する結果が得られた。さらに、抽出実験において一旦FMNを錯体により抽出しておき、そこにCu(I)と極めて高い親和力を持つバソクプロインを加えると、すべてのCu(I)錯体のホストはもとのホストに戻り、これにともないFMNの水相への逆抽出が見られた。また、バソクプロインの代わりに、トリエチルアミン塩酸塩を加えると同様の現象が見らた。したがって、このことからも擬シクロファン環とアンモニウム部によってFMNが協同的に認識されていることが支持された。ここでみられたCu(I)の添加による認識能の増大とバソクプロインによる認識能の消失を達成できたことは、これまで人工の分子認識系では例がなかった可逆的なアロステリックシステムが構築できたことを意味しており、今後の機能制御システムの設計にとって有用な知見が得られたと考えている。
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