研究概要 |
有機磁性体ならではの物性発現開拓のための磁性分子の高機能化を目指し、本研究では、申請者らが開拓した開殻ドナー・アクセプター分子の概念をさらに発展させ、電子授受等によりスピン多重度の制御が可能な分子を設計・合成し、基本単位となる磁性分子の高機能化を図り、将来的にはそれらの分子を集合化させ、伝導電子が媒介して局在スピン間が磁気的に整列した磁性金属や電荷移動相互作用に基づいた有機フェリ磁性体の構築を行うことを目的として研究を進めてきた。昨年度は、チアンスレン骨格の2,7-、2,8-位に二つのニトロニルニトロキシドラジカルの置換した開殻ドナー分子を合成した。中性の状態では2,7体、2,8体はそれぞれ三重項、一重項と基底スピン多重度が異なるが、一電子酸化によって、いずれも基底四重項へ変換される分子であることを磁気測定、ESR等により明らかにした。本年度は上記のような電子的性質を有し、かつ分子を集合化させた際に導電性をも合わせ持つ分子として、ドナー部にTTF骨格を用いて、一つまたは複数個のニトロニルニトロキシドラジカルが置換した開殻ドナー分子を設計した。ラジカルが1置換したものについては3種類の開殻ドナー分子を合成した。これらはそれぞれ対応するドナー部の酸化還元電位と同程度の電位を有し、良好なドナー性をもつことがサイクリックボルタンメトリーにより明らかとなった。また、ヨウ素酸化により発生させたこれらのカチオンジラジカルは基底三重項であることがESR測定によりわかり、合成した分子は目的の電子状態を有する開殻ドナーであることが確認された。電解結晶化法によるこれらのイオンラジカル塩の作成は現在検討中である。なおラジカルが4つ置換した開殻ドナー分子の合成は目的分子の前駆体まで達成されている。
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