申請者らの開発したベンザインとケテンシリルアセタールとの環化付加反応により得ることが可能になった種々のベンゾシクロブテン誘導体の独自の潜在的有用性を開拓し、それを活用する芳香族合成法の展開を検討している。9年度の研究では、芳香族環化反応、環拡大反応や開裂反応について広く検討した結果、次に述べる二つの有用な反応を開発することができた。 その一つは、ベンゾシクロブテノンとアルデヒドを用いるイソクロマン-3-オン誘導体の新合成法である。すなわち、リチウムテトラメチルピペリジドとアルデヒドを含む溶液にベンゾシクロブテノンを作用させると、ベンゾシクロブテノンのC(1)-C(4)間へアルデヒドの炭素-酸素結合が挿入したイソクロマン-3-オンが得られるというものである。この反応は各種のベンゾシクロブテノンとアルデヒドとの反応に応用することができ、従来の手法では合成の難しいC(4)位にアルキル基、アルコキシ基を有する化合物の合成も可能である。ベンゾシクロブテン類のC(1)-C(4)結合の開裂を利用する合成反応はこれまでに数多く開発されているが、この反応のようにC(1)-C(4)結合の開裂を利用するものはこれまでに報告されていない。 もう一方は、2-アルコキシ-2-ビニルベンゾシクロブテノール誘導体の環拡大反応による置換ナフタレン誘導体の位置選択的合成法である。すなわち、上記化合物をリチウムジアルキルアミドで処理すると低温で環拡大反応が進行し置換ナフタレン誘導体が得られるというものである。この手法はビニル基の構造の異なるさまざまな誘導体に応用できるため、置換ナフタレン、ジヒドロナフタレンを置換基の位置を制御して合成することが可能である。また、反応の立体経路について興味深い初期的知見が得られている。
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