研究概要 |
スチリル(フェニル)ヨードニウム塩の加溶媒分解において,立体保持と立体反転の置換生成物が得られることを見い出した.α一重水素化ヨードニウム基質を用いて同位体の分布を調べたところ,立体保持生成物ではα位とβ位で完全な同位体交差が起こっているのに対して,立体反転生成物では同位体の移動は全く起こっていなかった.このことから,前者はエチレンベンゼニウムイオン中間体を経るSNl機構で,後者は分子平面内背面攻撃によるビニルSN2機構で生成したものと結論された.ハロゲン化物イオンとの反応においても同様の結論が得られた. β,β-ジアルキルビニルヨードニウム塩,2-メチル-5-フェニル-1-ペンテニル(フェニル)ヨードニウムテトラフルオロボラート,の加溶媒分解においては,大量のβ-アルキル転位生成物が得られた.ZおよびEの異性体基質について検討したところ,脱離ヨードニオ基に対してトランス位のアルキル基が優先的に転位しているものの,シス位のアルキル基の転位も見られた.反応速度はE体の方が大きく,フェニルプロピル基の転位傾向がメチル基の転位傾向よりも大きく,反応は主としてβ-アルキル基関与によって進行しているものと考えられる.シスアルキル基の転位は,中間体第二級ビニルカチオン間のヒドリド移動による速い変換によって説明できる.ハロゲン化物イオンとの反応では,Z体の方が反応性が高く,主として立体反転の置換生成物が得られ,SN2反応を主反応として進行しているものと考えられる.
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