研究概要 |
4個以上のカルコゲン原子による直線状結合をもつ化合物を合成するためには、セレン原子を含む非結合相互作用の性質を詳しく調べる必要がある。この観点から、8-フルオロ-1-(p-アニシルセラニル)ナフタレンを合成した。この単結晶を得て、X線結晶構造解析を行ったところF----Se-C(An)原子がナフタレンと同一平面上に存在し、一直線状の結合を形成することが明らかとなった。この結果は、軌道の広がりが極めて小さいフッ素においても、セレン原子と非結合相互作用を行うことを証明するものである。p-トリル体や無置換のフエニル体の場合は、C-F結合が還元的に開裂することが観測された。上述の相互作用に起因するものと考えられる。 ビス[8-(フエニルセラニル)ナフチル]-1,1'-ジセレニド(1)の4c-6eの安定性は、外側の原子から内側の原子への電荷移動が重要な役割を果していることをAb initio MO計算によって明らかにしてきた。このことから、1の4,4'-ジニトロ誘導体を合成すればさらに安定な4c-6eをもつ化合物を合成できると期待される。そこで、1の前駆体であるナフト[1,8-c,d]-1,2-ジセレノールの4-位にニトロ基を導入した化合物を合成した。引き続き、1の4,4'-ジニトロ誘導体を合成し、さらに長鎖の化合物の合成を試みるている。 1 およびその長鎖誘導体の基本骨格である1-(p-置換フエニルセラニル)ナフタレンにおけるセレンの周辺の立体構造が、p-位の置換基によって劇的に変化することをX線結晶構造解析法によって明らかにした。今日まで見過ごされてきたこの分野における信頼すべき出発点が確定できたものと考える。
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