研究概要 |
長鎖直線状結合のうち最も短鎖である3中心4電子結合(3c-4e)は、合成例も多く、また理論的にも研究が進んでいる。3c-4eに続く4c-6eは合成例も極めて少なく、その性質は良く知られていない現状にある。本年度はこの現状を踏まえて、我々の合成したビス[8-(フェニルセラニル)ナフチル]-1,1'-ジセレニド(1)における4個の直線状Se原子からなるSe_4 4c-6eの特性をAb initio MO計算を用いて詳しく解析した。この場合、Se原子間の非共有電子対の関与する相互作用が重要な役割を担っていることが明らかとなった。そこで、1-(メチルセラニル)-8-(フェニルセラニル)ナフタレン(2)をモデル化合物として、Se原子の非共有電子対の関与する相互作用を詳しく検討した。その結果、2におけるSe原子の非共有電子対間の相互作用は、n(Se)---n(Se)π2c-4eとして記述できることを明らかにした。1における4c-6eとは対照的である。なお、2のフェニル基のp-位を塩素で置換した化合物においては、2個のセレン原子の相互作用は、n(Se)---σ^*(Se-C(Me))3c-4eとして記述できることも明らかにした。 1および2のフェニル基のp-位に置換基(Y=OMe,Me,(H),Cl,Br,COOEt,NO_2)を導入した化合物を用いて^<77>Se NMR化学シフトに対する置換基効果を詳しく調べた。その結果、2の8-位および1-位のセレンに対する効果を基準にした場合、1におけるそれらのSeに対する効果は、それぞれ同方向、逆方向の効果が観測された。GIAO理論を1および2のモデル化合物に適応して^<77>Se NMR化学シフトの理論計算を行ったところ、上記の測定結果は、それぞれ、4c-6e,π2c-4e(or 3c-4e)に特徴的な結果であることを明らかにした。
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