平成9年度に引き続き平成10年度においても鎖状化合物の位置・立体化学制御を目的とした方法論の開発の立場から、新規な選択性を発現できる反応系について検討した。その結果次の二つの反応系で新しい選択性が発現できることが明らかとなった。 1. γ-アルコキシ置換アリルスズとカルボニル化合物との付加反応は置換アリルスズのγ位でカルボニル炭素と結合することが、ルイス酸や熱活性化反応では常識であり逆の位置選択性での反応はなかった。ところが、本研究でカルボニル化合物を光で活性化し、γ-アルコキシ置換アリルスズとの一電子移動反応を利用することにより、従来困難であった置換アリルスズのα位でカルボニル炭素と結合できることが明らかとなった。即ち、(E)および(Z)-γ-アルコキシアリルスズ存在下でカルボニル化合物の励起光を照射すると、アリルスズからケトンヘ一電子移動が起こり、ケチルラジカルとγ-アルコキシアリルラジカルが生じ、引き続きγ-アルコキシアリルラジカルのα位がケチルラジカルとラジカルカップリングすることでα位置選択性が発現すると考えられる。さらに本法の興味深い点は、(E)よび(Z)-スズ試剤のアリル基の立体化学が保持されることである。位置選択性にはまだ改善すべき条件検討などが必要であるが、立体特異的γ-アルコキシアリル基の導入が可能になったことは本研究課題での大きな成果の一つである。 2. γ-一置換アリルスズのルイス酸誘起アリル化はスズ試剤の立体化学に関係なくアルデヒドとの反応で、syn-γ付加体を与えることは周知の事実である。ところが本研究課題でγ-二置換アリルスズとの反応では、(E)-体のスズからはsyn-γ付加体が生成するが、(2)-体のスズからはan〓-γ付加体が生成すると言う立体特異的反応が初めて見いだされた。
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