研究概要 |
酵素のもつ重要な性質の一つである分子認識の様式について明らかにするために、そのモデル化合物として、水素結合部位と金属配位子を組み込んだホスト分子の合成を行った。 まず、水素結合部位にナフトール環をもつサレンニッケル錯体を合成し各種アミノ酸誘導体との相互作用について調べた結果、ヒスチジンメチルエステルと僅かに相互作用していることが明らかとなった。しかし、その会合定数は小さく正確な値が求まらなかったため、中心金属をコバルトに変えた化合物について調べた。その結果、フェニルアラニンメチルエステルと会合することが電子スペクトルの変化からわかった。会合定数や会合様式については、今後さらに詳細に調べる予定である。 一方、水素結合部位としてフェノール環を導入した大環状サレンニッケル錯体の合成も行った。この錯体は、各種のアミンやピリジン誘導体と会合することがNMRスペクトルの解析から明らかとなった。特にジアミン類とは1:1の錯体を形成し、その会合定数は10^3から10^4M^<-1>程度であった。中でも2,7-ジアミノフルオレンが最も大きな会合定数を示したことから、会合の様式はフェノールの水酸基と金属部位の2点でおこっていることが推定された。 また、この化合物は中心金属をマンガンに変えると、オレフィン類のエポキシ化の触媒となることも明らかとなった。これらの結果より、先の分子認識能と組み合わせることにより、基質特異性をもつ人工酵素となる可能性が示された。この点についても今後検討する予定である。
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