ヨウ化メチルと窒素ドナー塩基によるMenshutkin反応の活性化自由エネルギーと、気相で測定された相当する塩基へのプロトン付加の標準自由エネルギーの間には直線相関があることが知られている。本研究では、MP2/6-31+G^*//RHF/6-31+G^*レベルの非経験的分子軌道計算により、プロトン化エネルギーと、活性化エネルギーとの直線相関の由来について理論的に検討を行った。実測されたsp^2及びsp^3混成の窒素原子を持つ塩基のプロトン化エネルギーとアンモニアの相当する値との差は、計算された活性化エネルギーと良い直線相関を示した。また、理論計算結果は、プロトンアフィニティを求核性の指標とするためには、sp^2求核種の値をスケールする必要があることを示した。 協同研究者の都野らは、メンシュトキン反応に関する置換基効果解析を行ったところ、S_N1反応とS_N2反応の共存とS_N2反応での機構変動があることが明らかとした。この機構変動を更に定量的に検討するため、アルキル、1級及び2級の置換ベンジルクロリドとピリジンとのメンシュトキン反応を非経験的分子軌道計算により検討した。その結果、二分子反応における機構変動の原因はN-C結合生成とC-L(脱離基)結合解裂の程度の変化で説明可能であり、機構変動は反応中心の安定化によりタイトな遷移状態構造からルーズな遷移状態構造への変化であることが確認された。 また、他のいくつかの系についても、置換基効果が種々の分子の化学反応性や物性をどのように変化させるかについて、実験結果と計算結果を比較検討した研究を行った。その結果、実験有機化学者の立場では、置換基効果は新たな有用分子を合成できるキーで、理論計算から得られる置換基効果に関する情報は非常に貴重であるばかりでなく、理論化学者にとっても取り組まなければならない重要な内容を含んでいることが明らかとなった。
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