研究概要 |
特異な光特性を有する新規な有機磁性体を開発する目的で、TEMPOラジカルを置換基として有するスピロピラン誘導体の合成を行った。合成したスピロピラン類(閉環型)は365nmの光照射によりメロシアニン型(開環型)へと変化し、これらのメロシアニン体はいずれも固体として単離することができた。また、開環型メロシアニン体は、それぞれ熱により容易に閉環型へと戻り、フォトクロミック特性を有することが確認された。これら各化合物の磁化率の温度依存性を検討した結果、閉環型スピロピラン類にはいずれも弱い強磁性的相互作用が観測され、開環型にはいずれも弱い反強磁性的相互作用が観測されたことから、光および熱によるスピロピラン誘導体の構造変化に基づいた磁性の変換が可能であることがわかった。一方、TEMPOラジカルを置換基として有する一連のノルボルナジエン誘導体を合成し、254nmの光照射によりクワドリシクラン誘導体へと変換した。これらクワドリシクラン誘導体はPd-C触媒の存在下に加熱すると容易に元のノルボルナジエン誘導体へと戻ることがわかり、ノルボルナジエン-クワドリシクランの原子価異性系を構築することができた。これら原子価異性体の磁性を調べたところ、上記のスピロピラン誘導体とは対照的に、それぞれの系で磁性が保存されることがわかった。 また、4-アルキルアミノTEMPO類と2,4,6,8-テトラシアノアズレンより形成される一連のCT錯体の合成を行い、それらの内より特異な磁性と導電性を有する錯体を見い出した。現在、更に磁性や導電性と特異な光特性を併せ有する系の構築に向けて検討中である。
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