N-アシル-9-トリプチシルアミン誘導体として、本年度はN-ベンジル-N-9-トリプチシルアセトアミド(1)およびN-フェニル-N-9-トリプチシルアセトアミド(2)を研究対象として選んだ。 合成は9-トリプチシルアミンをベンジル化ないしフェニル化したのち、アセチル化することにより達成された。化合物1では、X線結晶構造解析より結晶中でアミド結合がZの配座で存在すること、アミド窒素がかなり三角錘化していること(窒素原子周りの結合角の和は350°)が観測された。三角錐化の程度はすでに報告したN-メチル体やN-エチル体に比べて大きい。溶液中ではアミド結合に関してEおよびZ両異性体の平衡混合物として存在し、その平衡組成は溶媒によって大きく変化した。各種溶媒における平衡定数の温度依存性を測定し、平衡の熱力学的パラメータを求めた。Z E異性化は室温前後でNMR時間尺度で起こることがわかり、速度定数を完全線形解析法と飽和移動法によって求めて、異性化の速度論的パラメータを算出した。異性化の速さも溶媒に大きく依存することがわかった。^1HNMRスペクトルの線形はTp-N結合の回転の速さにも依存し、-70℃以下の低温ではベンジルメチレンプロトンが非等価に観測された。これはアミド窒素が三角錐化した構造に凍結されたものと解釈できる。 現在、化合物2について溶液中でのNMRの測定および解析、X線構造解析のための単結晶作成を進めている。次年度はさらに窒素に第2級アルキル基が結合した誘導体の合成とその挙動の測定と解析を行いたい。
|