研究概要 |
メタン発生菌は厳格な嫌気性細菌で特異な細胞膜構造や代謝形態で他の生物群とは異なる特徴を多々有している。そのメタン菌代謝の中心をなすものはC1-単位、特にメチル基の転位反応である。メチル基はメタノプテリン→補酵素B12→補酵素M→F430→プロトンと転移して最終的にメタンを発生する。 本年度は主としてメタノプテリンモデル化合物の合成および補酵素Mモデルの反応を行った。まず、メタノプテリンの主骨格であるプテリジン環の合成法として、我々が従来から研究してぃる2,3-ジシアノピらジンを出発原料とする新しいルートを研究した。この反応の重要過程はジシアノピらジンのシアノ基の1つを置換してアミンに導くことであるが、アンモニアを求核剤とした場合複雑な反応が起こるので、本研究ではアリルアミン及びプロパルギルアミンを用いて置換体を得、0価パラジウムや他の還元剤を用いて還元的に脱アリル或いは脱プロパルギルする方法を開発した。この方法を利用したプテリジン環合成は現在ほとんど完成している。またピリミジン誘導体を出発原料とするプテリジン合成も同時に手がけており、6-アリルアミノウラシルからの合成ルートもほぼ最終段階に達している。 次にもう1つの研究は補酵素Mのメチル基受け渡しをモデル化した反応であるが、われわれはこの過程において、チイルラジカルが重要な役割を演じていることをつきとめた。そしてこのメチル基転移が本質的にメチルラジカル-チイルラジカル間のS_H2反応であることをつきとめた。その遷移状態においてはイオウにもう一つの配位子が結合して(10-S-3)の超原子価状態をとり、遷移状態が安定化を受けていることを実験事実に基づいて提唱した。このことから、リボ核酸還元酵素によるDNA合成において重要な過程である還元酵素中のチイルラジカルによるリボースからの水素引き抜きにも、チイルラジカルの超原子価が関与している可能性を提唱し、モデル反応からそれを支持する実験結果を得ている。酵素中のシステイン残基が反応に関与するれいは数多く存在し、全てとは言わないまでも超原子価状態が反応に関与している場合も多いと思われる。すなわち酵素反応を理解する上で本研究の成果は大きな意義があると考えられる。
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