昨年度の研究で、各種の光学活性アミンをaxialに配位させたγ-シアノプロピルコバロキシム錯体に固相で光照射すると、β-置換錯体を経て一方向的にα-置換錯体へ固相不斉光異性化反応が起こり、光学活性α-シアノブロピルコバロキシム錯体が最高91%eeの不斉選択率で生成することを明らかにした。その際、反応速度は1段階目より2段階目の方が大きい、また、不斉選択率も、第1段階目よりは第2段階目の方が高いという興味ある結果を明らかにした。今年度は、更に新規な固相不斉反応を開発すること並びに不斉選択機構を明らかにすることを目的として研究を行い、次に記述するような成果を得た。 (1)今回新規に合成し光反応を検討したγ-シアノプロピル錯体の中で、(S)-1-cyclohexylethylamine並びに(S)-l-benzyl-3-aminopyrrolidineを配位した錯体の場合、これまでの一般的な傾向と異なりβ錯体の不斉収率の方がα錯体のそれより大きいという異常な結果が得られた。(2)各種のγ-シアノプロピルコバロキシム錯体のX線結晶構造に基づいて描かれた反応空間の形により、生成するα錯体の優勢なエナンチオマーを予測できることを明らかにした。(3)(1)で記述した異常な結果をもたらす機構を明らかにするため単結晶に光照射し、経時的にX線結晶構造解析を行った結果、まず、反応基のコンホメーションが変化し次いでβ錯体が生成することを直接観測することに成功した。このことにより一連のγ-シアノプロピル錯体の反応において中間に生成するβ錯体の立体配置を明確にすることができた。(4)平面配位子に嵩高い置換基を導入した新規β-シアノエチル錯体の固相光反応を検討した結果、この系列の錯体では、従来の錯体に比して反応速度が著しく向上すること、並びにその原因は反応空間が拡大しているためであることをX線構造解析に基づいて明らかにした。
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