チオレート型配位子(RS^-)を二分子あるいは三分子配位した八面体型単核錯体は、硫黄原子を用いて金属イオンと結合し、単核錯体の自己集合体である硫黄架橋多核錯体を形成することが示されている。最近、反応させる金属イオンを八面体性のコバルト(III)から四面体性の亜鉛(II)へ変えることにより、全く異なった構造をもつ硫黄架橋多核錯体の形成が見出され、金属イオンの配位様式に基づいた多核構造の制御の可能性が示唆された。そこで本研究では、これまで研究例の少ない二配位直線性や四配位平面性の金属イオンと八面体型チオラト単核錯体との反応を行い、新種の硫黄架橋多核錯体の構築、ならびに単核錯体の集合化による新規物性の発現を目指した。 その結果、直線性金属イオンとして、硫黄原子との親和性が大きい銀(I)を選び、これを2-アミノエタンチオレート(aet)やL-システネート(L-cys)が配位したCo(III)チオラト単核錯体と反応させたところ、特異な三重らせん構造をもつ新規硫黄架橋Co^<III>Ag^I_3Co^<III>五核錯体が得られた。その構造を、単結晶X線解析により決定するとともに、生成する異性体の分離、分割、および種々の分光化学的手法による異性体の同定を行った。一方、四配位平面構造をとりやすいPd^<II>との置換反応をCo^<III>Ni^<II>Co^<III>硫黄架橋三核錯体に対して行ったところ、対応するCo^<III>Pd^<II>Co^<III>三核錯体が形成されることがわかった。さらに、このCo^<III>Pd^<II>Co^<III>三核錯体に当モルの[PdCl_4]^<2->を反応させたところ、八面体型単核ユニットにPdCl_2の結合したCo^<III>Pd^<II>二核錯体に構造変換された。これらの実験により、直線性や平面性の金属イオンによるチオラト単核錯体の集合様式を解明するとともに、金属イオンの配位様式ならびに反応モル比の調整による多核構造の制御を実証した。
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