研究概要 |
中心金属によって引き起こされる液晶サーモクロミズムが、ファンデルワールス相互作用を視覚化できることを発見した。我々は、長鎖を円盤状のビス(グリオキシマート)d^8金属(II)錯体に導入することで、非常に興味深いサーモクロミズムを示すカラムナー液晶の合成に成功した。これらの長鎖置換Ni,Pd,Pt錯体(C_nO)_8-Mは、金属の一次元鎖の構造を取り、金属-金属積み重なり距離に応じて、色が変化する。昇温と共に、金属-金属間距離が増大し、これが中心金属におけるndz^2充填価電子帯と空の(n+1)p_Z伝導体のバンドギャップの増大を招く。一般的に言って、液晶物質が加熱されると、周辺アルキル鎖が融解するが、中心の芳香族環の部分は未だ固いままで残っている。低温ではファンデルワールス半径内に隣接の長鎖がいる。これは、本(C_nO)_8-M系においてd^8金属間の距離を、結果として縮めることになる。この周辺長鎖のファンデルワールス相互作用の「ファスナー効果」は、昇温とともに弱められ、中心金属鎖中のndz^2-(n+1)p_Z相互作用による目で見える色の変化を引き起こす。 この金属-金属間が加熱により上下に伸びるのかそれとも横滑りすることにより伸びるのか不明であった。そこで、今回、ニッケル金属錯体液晶の一次元積層構造を、X線吸収端構造(XANES)スペクトルを解析することにより決定した。その結果、Ni-Ni間距離およびNi-配位原子間距離の変化は非常に小さく、EXAFS分析の検出限界以下であるので、主な積層構造は、高温下においてもほとんど全く同じコンフォメーションをとっていると考えられる。しかしながら、そのXANES解析をDV-Xα計算を用いて行うと、錯体の構造が高温で分子面が横に滑ることにより変化しているということを、よく説明できることが初めてわかった。
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