研究概要 |
1.三核クラスター錯体[CO_3M_3(μ_3-CPh)_2]のカチオンラジカルを単離しその単結晶の成長を行いSbF_6,PF_6,ClO_4をカウンターイオンとしたときに単結晶が得られ,ClO_4塩は中性錯体との比較に十分な良好な結晶が得られた.距離の変化は1つのCo-Co間距離が大きく縮み,1つはわずかに伸び,残りの1つはほとんど変化していないことがわかった. 2.Gaussian94を用い密度汎関数法による分子軌道計算を行った.コバルト三角に垂直な鏡面を置いたときの中性錯体およびカチオンの構造最適化は構造変化を一部再現していると考えられる結果が得られた.しかし,コバルト三角を鏡面としたときは,最適化がうまくいかずこの方法では実験結果を再現することは難しいことがわかった. 3.カチオンラジカルのNMRの温度変化を行い,構造データから見積もったpseudo contact shiftを差し引くことによりcontact shiftを求めた.この結果ベンゼン環上への不対電子密度の拡がりはπ軌道を通してのものであることが明らかとなった. 4.三核クラスター錯体[Cp_3CO_3(μ_3-CPh)_2]とAgO_2CCF_3やAgNO_3などの銀塩との反応を行い1つのコバルト-コバルト原子間に銀が架橋した構造の錯体[Cp_3CO_3(μ_3-CPh)_2{μ-Ag(X)}](X=O_2CCF_3,NO_3)を得た.この錯体のアセトニトリル中でのNMR,ESRより,アセトニトリル中ではカチオンラジカル[Cp_3CO_3(μ_3-CPh)_2]^+の生成を含む平衡があることが明らかになった. 5.[CP_3CO_3(μ_3-CPh)_3]とハロゲンとの反応を行い1つのコバルト-コバルト原子間にハロゲンが架橋した構造の錯体[Cp_3Co_3(μ_3-CPh)_2(μ-X)]^+(X=Cl,Br,I)を得た.この錯体のサイクリックボルタジメトリー(CV)測定を行ったところ還元により中性の[Cp_3CO_3(μ-CPh)_2]が再生することが明らかになった.また,中性錯体に過剰のCl^-を加えた条件でのCV測定より,[Cp_3CO_3(μ-CPh)_2(μ-Cl)]^+生成の機構は,まず中性錯体の1電子酸化により[Cp_3CO_3(μ_3-CPh)_2]^+が生成し,これとCl^-が反応したものが速やかに酸化されて[Cp_3CO_3(μ_3-CPh)_2(μ-Cl)]^+となるというものであることが明らかとなった.
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