研究概要 |
多くの硫黄原子を導入することにより、π電子系を配位子分子軸方向に一層拡張することにより、配位子内での酸化還元を安定化し、また、硫黄原子を介した多次元的分子間相互作用を拡大しうるエチレンジチオテトラチアフルバレンジチオラト配位子(C_8H_4S^<2->_8,etdt)に着目し、この配位子を有するかさ高い金属錯体によって分子性高電導体を得ることを目指した。かさ高い錯体中では二次元あるいは三次元的に張り出した配位子によって多次元性分子間相互作用に基づいた固体状態での新しいタイプのパッキングが生じ、特徴ある電導経路形成が期待される。まず、C_8H_4S^<2->_8(etdt)配位子の前駆体であるetdt(CH_2CH_2CN)_2を得て、Na_2etdtを発生させて[PtCl_4]^<2->塩と反応させ、平面構造をもつ[Pt(etdt)_2]^<2->錯体を得た。これとヨウ素との反応によって得られる酸化体は高い電導度を示した。また、Na_2etdtと[Mo(O)Cl_5]^<2->塩との反応により[M(O)(etdt)_2]^<2->錯体を得た。四角錐構造をもつこの錯体の酸化還元電位は低く、ヨウ素あるいは[Fe(C_5Me_5)_2]^+塩で酸化されて、基本的に二電子酸化体固体が得られた。これらは室温で0.29-5.9Scm^<-1>の高い電導度を示した。さらに、Na_2etdtとCo(η^5-C_5H_5)(CO)_2を反応させてCo(η^5-C_5H_5)(etdt)を合成した。この錯体においてもその酸化電位は低く、ヨウ素との反応によって得られる一電子酸化体[Coη^5-C_5H_5)(etdt)]I_3は室温で0.19Scm^<-1>という高い電導度を示した。平面性からかなりはずれた分子構造であるにもかかわらずこのような優れた導電性は、酸化されたetdt配位子中にある多くの硫黄原子による効果的な分子間相互作用によるものと考えられる。
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