研究概要 |
炭化水素類など反応性の乏しい有機化合物へ官能基を導入し、従来限られた用途しかなかった炭素資源を有効に利用することは工業的にも大変有用である。メタンモノオキシゲナーゼ(MMO)に代表される非ヘム系酸化酵素は、温和な条件でアルカン類を酸素化できることで知られているが、工業的な触媒では活性が低く選択性も不十分である。近年、ルテニウムを含む非ヘム系酸素化酵素のモデル錯体が炭化水素類の酸素化触媒として有効であることが見いだされたが、まだ十分満足のいく結果は得られていない。そこで、炭化水素類の酸素化反応の触媒となりうる新しい錯体触媒の開発を行い、アルカン類への官能基の導入を検討した。 MMOの活性中心にある鉄イオンへはイミダゾールなどの含窒素複素環およびカルボキシル基が配位していることに着目し、トリス(ピコリル)アミンやN,N-ビス(ピコリル)グリシナトなど、ピリジル基・カルボキシル基を有する四座配位子を含む新規なルテニウム錯体を合成し、それらを触媒とするアルカン類の酸化反応を検討した。トリス(ピコリル)アミンのクロロ(ジメチルスルホキシド)ルテニウム錯体を触媒としアダマンタンを基質とした場合、1-アダマンタノールが最高75%得られ、これら錯体はアルカンの酸素化反応のルテニウム錯体触媒としては、これまでにない高活性な触媒であることがわかった。この反応は溶媒依存性が高く、クロロホルムがもっとも適した溶媒だった。さらに共酸化剤であるm-クロロ安息香酸の添加法を工夫することにより、最高88%まで1-アダマンタノールの収率を向上させることが出来、副生成物もほとんど見られなくなった。一方、シクロオクタンを基質にすると、シクロオクタノンが主生成物として得られた。今後、錯体の構造や性質を検討することで、他の基質でも高活性・高選択的な触媒の開発が期待される。
|