研究概要 |
固体清浄表面にnーアルカン、飽和脂肪酸塩、アルカジイン、アルカテトラインなどを蒸着すると、分子が横たわって並んだ単分子層やそれが積み重なった多分子層(単層成長膜)が得られる場合があるが、膜の構造の詳細には不明な点が多い。本課題では、グラファイト基板に形成した 17,19ーヘキサトリアコンタジイン(HTDY)膜を例に取り、ペニングイオン化電子スペクトル(PIES)と走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて構造評価を行った。 HTDY膜は層数に関係なく擬π(pπ)MOに基づくピークP_1とP_2が強調されたPIESを与え、分子が横たわっていることを示したが、単分子層と多分子層のPIESではP_1とP_2の相対強度が異なった。P_1とP_2は、それぞれ、pπMO領域の頂上付近と底付近の高い状態密度に対応する。C-C単結合を切る節が多い頂上付近のpπ(pπ_t)MOは、CーC間の分子表面の窪みからの滲み出しが小さいのに対し、そのような節が少ない底付近のpπ(pπ_b)MOは滲み出しが大きい。逆にC-H結合方向への滲み出しはpπ_tMOの方がpπ_bMOよりも大きい。このことから、(1)単分子層では、分子の炭素骨格平面が下地に平行であり、CーC間の窪みでの局所電子分布がより大きいpπ_bMOに基づくP_2が、状態密度では優るpπ_1MOによるP_1と同程度の強度を示す;(2)多分子層では、表面分子の短軸が若干傾き、水素原子近傍での局所電子分布と状態密度の両方に優るpπ_tMOに基づくP_1が強調される、と解釈できた。なお、STM観察により、単分子層では分子が平らな配向で規則正しく2次元充填していることが確認された。 また、HTDY単分子層および1,15,17,31ードトリアコンタテトライン単分子層の表面トポケミカル反応により生成する帯状巨大分子(atomic sash)単分子層および織物状巨大分子単一層(atomic cloth)のSTM像を解析し、周期構造を明らかにした。
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