ペニングイオン化電子スペクトル(PIES)と紫外光電子スペクトル(UPS)を用いてグラファイトの劈開面に形成したn-アルカン(I)、飽和脂肪酸の二価金属塩(II)、アルカジイン(III)、アルカテトライン(IV)の蒸着超薄膜の構造評価を行った。いずれの化合物でも横たわった分子から成る単分子層が得られ、これを1層ずつ積み重ねて単層成長させることができた。しかし、I-IIIは単分子層と多分子層が微妙に異なるPIESを与えた。擬πMOとO_<2S>MOの電子分布・状態密度のエネルギー依存性を詳細に検討した結果から、その原因は、1層めでは炭素のzigzag面が基板に平行に配向するのに対して、2層めからはzigzag面の短軸が傾くことにあると考えられる。 IIIの単分子層とその光重合により生成する帯状巨大分子(atomic sash)単分子層、ならびに、IVの単分子層の光重合により生成する織物状巨大分子単一層(atomic cloth)に対して、走査トンネル顕微鏡(STM)観察を行い、どの場合もアルキル鎖が平ちな配向で規則正しく2次元充填していることを確認した。さらに、分子または各種鎖の配列状態、基板との整合関係、巨大分子の周期構造などを明らかにすることができた。 atomic sashも単層成長させることができたが、IIIの場合とは異なり、atomic sashのアルキル鎖は2層め以降も平らに配向した。ただし、累積過程のPIESでは最上層に配座の乱れたアルキル鎖が検出された。このことに対応して、atomic sashの1層部分(A)と2層部分(A^2)が混在する試料のSIM観察では、同一領域に対する連続する走査でA-A^2境界が違う形状にみえ、隣のsashと接していないA^2部分端のアルキル鎖が不安定であることがわかった。ただし境界以外はA部分、A^2部分のいずれにおいても、アルキル鎖、ボリジアセチレン鎖は規則正しく配列していた。
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