本研究では、高分子ゲルのメゾスコピックサイズの表面構造とその刺激応答性を測定し、ゲルの合成時に形成されるドメイン構造と、外的環境変化による表面構造の変化を観測・解析することによって、巨視的な機能に及ぼすドメイン構造の影響を明らかにする。そのために、高分子網目の性質の異なる様々なゲルを合成し、微視的・巨視的手段を用い、表面構造の階層性について研究する。サブミクロンサイズの表面構造が巨視的な機能発現に果たす役割について考察し、高分子の持つ複雑構造とそれが果たすユニークな機能への役割を解明することを目的とした。平成10年度はゲルの巨視的な表面物性の実験を行ない、次の成果を得た。 1. 巨視的な体積相転移とキネティクスを測定し、既報の相転移の実験・理論と比較した。体積変化を、顕微鏡ビデオシステムを用いて測定し、各々の因子の膨潤曲線に与える影響、刺激応答性、相転移速度について考察した。 2. 表面の巨視的な性質の1つとして、水中での空気泡の静的接触角を測定した。前年度と同一条件で合成した各種ゲル表面の接触角を、外部環境の関数として測定した。ゲル表面と気泡間の静的接触角を測定し、表面の疎水的、親水的といった化学的性質のみならず、網目の密度、表面の不均一性、表面粗さといった物理的性質の微妙なバランスによって接触角が決まることを実験により明らかにした。 3. 前年度のAFM像による微視的な表面構造の評価、及び本年度得られた巨視的な実験結果を基に、ゲルの表面構造の階層性を評価し、ゲルの構造と外部環境変化の影響、サブミクロンサイズの表面構造が巨視的な形態変化を生み出す原理と巨視的な機能の発現に果たす役割について考察した。分子レベルの化学的性質や構造の変化のみならずサブミクロンサイズの構造とその変化が、巨視的な表面の機能に大きな影響を与えることが示された。
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