本研究はジアリールエテンの反応性を立体構造と電子状態を考慮してその反応の本質を明らかにするために、チオフェン環をアリール基とするジアリールエテンについてエテン部分と結合するチオフェン環の位置がフォトクロミック特性にどう影響するかについて検討してきた。その結果、以下の様な知見が得られた。 1)チオフェン環上のエテン部との結合位置を3位から2位にしたビス(2-チエニル)ペルフルオロシクロペンテンは、フォトクロミック反応の繰り返し耐久性が増大した。それは、副反応の反応サイトである電子密度の高いチオフェン環の2位が強力な電子吸引性のペルフルオロシクロペンテン環で置換されたためである。 ビス(2-チエニル)ペルフルオロシクロペンテンのチオフェン環から共役を延ばしたり、ペルフルオロシクロペンテン環をエテン部と共役するカルボニル基をもつマレイミド基にするとフォトクロミズムをしなくなり蛍光を発するようになる。これはフォトクロミズムを起こせない平面型のコンフォーマ-の寄与が大きくなったことに起因していた。 3)ビス(2-チエニル)ペルフルオロシクロペンテン誘導体の閉環体の吸収帯は、ビス(3-チエニル)ペルフルオロシクロペンテンの吸収帯より短波長側にくることが、確認された。またこれは、チオフェン環の代わりにチアゾール環を用いたり、ペルフルオロシクロペンテン環の代わりに、マレイミド環を用いても全く同じであり、置換位置がフォトクロミズムに及ぼす効果の大きさを実証することになった。
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