研究概要 |
生体系に見られる選択的かつ特異的な基質変換反応を生体外で金属錯体を用いて構築する場合,本来の酵素に比べて低分子化した金属錯体では配位子間相互作用として現れる基質認識過程だけを取り上げることが可能であるため,分子設計に基づく機能変換を容易に行なえる点が特徴となる.我々はビタミンB6酵素群におけるアミノ酸代謝活性中間体のアポ酵素-補酵素-基質複合体をで発現する分子認識を,遷移金属錯体における配位子間相互作用としてモデル化することを目的として,中心金属にCo(III)イオン,第一配位子にポリピリジンを用いてアポ酵素とし,サリチルアルデヒド誘導体を補酵素,各種アミノ酸を基質とした三元錯体を合成し,これら配位子間相互作用がアミノ酸変換反応に及ぼす効果を検討した. まず生体内に存在する補酵素であるピリドキサールを用いた分子認識モデル錯体において,ピリドキサールの2位メチル基がCH-π相互作用に基づく相互作用基として複合体形成に重要であることを見いだし,その結果をJ.Chem.Soc.,Dalton Trans.誌に報告した.さらにアミノ酸錯体における分子認識の重要性を示した報告を,Inorg.Chim.Acta誌で2報公表予定である.このような知見を基にアミノ酸変換反応を三元錯体で検討した結果,タ-ピリジンを第一配位子とした場合にはアミノ酸α位が酸素によって水酸化されることを見いだし,さらにこれを中間体としてアミノ酸のアミノ基がカルボニル化合物へと転移する新規なトランスアミネーションが起ることも見いだした.(投稿準備中)現在,タ-ピリジン以外の第一配位子によるα位水酸化反応の検討,及び各種カルボニル化合物によるトランスアミネーションの検討を行なっており,構造同定された活性種を経由する反応における,錯体の構造変化を含む配位挙動と反応性との関係を総合的に追跡している.またこの水酸化反応はジペプチドを配位子とした場合にも展開できることが判明し,その結果はJ.Inorg.Biochem.誌に報告した.
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